ある夜、方谷は自分の作った表簿とにらめっこしながらなにやらぶつぶつといっている。
よく朝、方谷は藩の筆頭家老ら数名を自らの部屋に呼ぶと神妙な面持ちで語り始めた。

「現在松山藩には一〇万両の借金がございます。しかし石高は二万両ほど、この中から藩士らへの俸禄と江戸-大坂の屋敷の管理費、必要経費などを引くと一両も残りませぬ、この中から利子や元本を返済するのは現時点では無理でございます。」
家老らはざわつき出す。
「しかし、道はございます。」方谷は続ける。
「私自身が大坂に出向き、現在の松山藩の現状を包み隠すことなく説明して参ります。そしてその上で借金の棚上げをお願いするのです。」

「馬鹿な!そんな恥さらしなことができるか!」家老の一人が大声を上げた、その怒鳴り声に方谷は静かに淡々と答えた。
「借りた物は返す、此は当たり前のことでございます。武士として最も恥ずべきことは実のない偽りで塗り固めたことを言い続け、結果返済不能となることでございます。今までのような小信を守り少しばかりの利子をだましだまし払っていることこそ恥、銀主に借金の一時棚上げをお願いするのは大いなる信義を守るためでございます。

数日後方谷は大阪に向かう。大坂の屋敷に集められた銀主達は、これから何かが起こりそうなただならぬ予感を感じていた。